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サービス提供者のユーザー間の紛争と弁護士会照会

1 はじめに


 Webサービスは多種多様なものが存在しておりますが、そのサービス内容も年々進化している状況にあり、昨今では、ユーザーとサービス提供者との間での紛争に限らず、ユーザー間の紛争事例も多く見受けられます。

 Webサービス上、ユーザー間で紛争が生じた場合、ユーザーが弁護士を利用し、サービス提供者に対して弁護士会照会がされることがあります。今回は、このようなWebサービス上のユーザー間の紛争に関して、弁護士会照会を受け取った場合、サービス提供者としてどのように対応すべきかという点と、そのリスクについて、解説をさせて頂きます。


2 弁護士会照会とは


 「弁護士会照会」とは、弁護士が依頼を受けた事件について、証拠や資料を収集し、事実を調査するなど、その職務活動を円滑に行うために設けられた法律上の制度(弁護士法第23条の2)です。個々の弁護士が直接、対象者に対して照会を行うものではなく、弁護士が弁護士会を通じて行うものです。弁護士会では、弁護士からの申出を受けた後、審査を行った上で照会を行います(日本弁護士連合会「弁護士会照会制度(弁護士会照会制度委員会)」のページ、※1)。

 ユーザー間における紛争が生じた場合、ユーザーの代理人となる弁護士から所属弁護士会に対して弁護士会照会の申出がなされ、申出をうけた弁護士会が審査を行ったうえで、当該弁護士会からサービス提供者に対して照会を送付します。多くの場合、照会には、照会申出書の写しが添付されており、そこには、申出をした弁護士の名前、電話番号、当該弁護士の受任事件の当事者、事件概要、照会を求める理由及び照会事項が書かれています。照会事項としては、ユーザーの氏名、住所、電話番号、口座番号等が考えられます。


3 弁護士会照会への回答義務と回答拒絶理由


 では、サービス提供者は、弁護士会照会を受け取った場合、回答すべき義務があるのでしょうか。

 これについて、判例上、「23条照会を受けた公務所又は公私の団体は,正当な理由がない限り,照会された事項について報告をすべきものと解される」(最判平28年10月18日第三小法廷判決・民集70巻7号1725頁)と述べており、原則としては、回答しなければならないものとなります。一方で、この判例が示す通り、例外として「正当な理由」がある場合、回答をしなくてもよいことが読み取れます。そして、ここでいう正当な理由については、明確化された基準はなく、開示することにより失われる利益と開示しないことにより失われる利益を比較して判断されているものといえます。

 弁護士会照会を受けた会社が、その照会に対する拒絶理由として、個人情報保護を理由とすることが多くあります。

 回答を拒絶する会社の多くは、個人情報の保護に関する法律を根拠としていますが、この法律によると、法令に基づく場合に行われる個人情報の提供については、個人情報の提供も例外的に認められており、ここでいう「法令」には、弁護士会照会に基づく開示も含まれるとされています(個人情報保護委員会「個人情報保護法ガイドライン(通則編)」※2)。一方、裁判例の中には、弁護士会照会であれば直ちに「法令に基づく場合」に該当するものと扱わず、弁護士会照会の制度趣旨及び目的に即した必要性と合理性が認められることが必要とするものがあります(東京地判平成22年8月10日)。

 このため、弁護士会照会を利用し、サービス提供者から、紛争の相手方のユーザー情報を取得しようとする場合、たとえ弁護士会の審査を通過しても、サービス提供者側が具体的に判断した結果、相手方のユーザー情報を開示しないことが、正当な回答拒絶理由ありとして認められるときがあります。


4 サービス提供者として弁護士会照会に応じた場合と応じない場合のリスク


 サービス提供者として、弁護士会照会に応じた場合と応じなかった場合では、それぞれどのようなリスクがあるのでしょうか。

 (1) 照会に応じた場合

 サービス提供者は、情報開示をされたユーザー側からの損害賠償請求を受けるおそれがあります(最判昭和56年4月14日)。

 情報開示をされたユーザー側からの損害賠償請求が認められるか否かは、その事案における照会状況、照会事項等に照らして判断されるものであり、一概には言えません。例えば、照会の際に通知された照会理由からして、明らかに不必要な事項までも含む広範囲な照会であった場合にもかかわらず、安易に全ての事項を開示してしまったときには、情報開示をされたユーザー側の損害賠償請求が認められる可能性が高まるものといえます。

 サービス提供者としては、照会に応じるべきと判断しなければならない事案もあるかと思います。そのような事案に備えて、例えば、予め利用規約やプライバシーポリシーにおいて弁護士会照会に応じて開示することを明記し、ユーザーへの周知と同意を得ておくこと等も、照会に応じた場合のリスクを低める方法としては望ましいものといえます。

 (2) 照会に応じなかった場合

 サービス提供者が弁護士会照会による照会に応じなかった場合について、まず、最近の判例では「23条照会に対する報告の拒絶について制裁の定めがないこと等にも照らすと、23条照会の相手方に報告義務があることを確認する判決が確定しても、弁護士会は、専ら当該相手方による任意の履行を期待するほかはない」とされています(最判平成30年12月21日)。つまり、弁護士会照会に応じなかった場合であっても、現行法上、弁護士会照会拒絶をもって、制裁を科されることはありませんし、強制的に照会に応じる義務を履行させられることもありません。

 しかし、この判例が述べている内容は、直接の照会者となる「弁護士会」との関係に留まっていることに留意する必要があります。最近では、弁護士会照会の申出をした弁護士や、弁護士に弁護士会照会を依頼していた者からの損害賠償請求が起こされる事例が出ています。このような請求については、過去の裁判例においては認められない傾向にありましたが、確立した最高裁判例があるわけではありません。今後も、サービス提供者は、弁護士会照会の内容を検討することなく、安易に一律的に回答拒否をした場合には、裁判所の判断によっては弁護士又はその弁護士へ依頼した者からの損害賠償請求が提起され、その請求が認められてしまうという可能性もあります。


5 まとめ


 以上のとおり、Webサービス上のユーザー間で紛争が生じ、弁護士会照会がサービス提供者に届いた場合、サービス提供者としては、①照会に応じる、②照会を拒絶する、という対応が考えられますが、この2つの選択には、いずれもリスクが一定程度存在しているといえます。

 サービス提供者が、弁護士会照会に対して拒絶することが許される基準も明確ではなく、昨今の裁判所の判断も事例により異なった判決をしている傾向が見受けられます。Webサービスを運営する会社に対する弁護士会照会について、判例の蓄積は少ないため、前例のみを参考にして、弁護士会照会に応じるか否かを判断することも難しいのが現状です。サービス提供者は、この点について、慎重な判断が求められるといえます。


※1 https://www.nichibenren.or.jp/activity/improvement/shokai.html

※2 https://www.ppc.go.jp/files/pdf/guidelines01.pdf


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