取引DPF法施行に伴いプラットフォーム事業者がとるべき対応について
1 はじめに
2022年5月より、オンラインモールやフリマサイト等のデジタルプラットフォーム(以下「DPF」)を対象とした「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律」(以下「取引DPF法」)が施行されました。この法律を受け、プラットフォームを運営する取引DPF提供者(以下「事業者」)は、例えば消費者からモールに出店する販売業者等の情報開示請求を受けた場合、資本金の額や事業規模に関わらずその請求に対応しなければならなくなりました。そこで、このブログでは、取引DPF法の概要と、事業者が情報開示請求を受けた場合の対応方法等に関する主な点について解説させて頂きます。
2 取引DPF法の概要と他の法律との関係
まず、取引DPF法の主な規定としては、
① 事業者が、消費者と販売業者等との円滑な連絡を確保する措置等を講じる努力義務を負うこと(3条)
② 消費者が、販売業者等に請求を行うために、事業者に対し、販売業者等の情報開示を請求できる権利(情報開示請求権)があること(5条)
③ 内閣総理大臣が、取引DPFを利用する消費者の利益が害されると認めた場合、事業者に対し、適切な措置をとれること(10条)
等があります。
取引DPF法は、特定商取引に関する法律(以下「特商法」)を遵守しない悪質業者への対処を求める強い意見等に沿って制定された法律であることから、取引DPF法と特商法とは、規制内容等の共通点もあります。しかし、特商法は、規制の矛先が主に販売業者に向けられており、事業者への規制は間接的なものにとどまるのに対し、取引DPF法は、規制の矛先が直接事業者に向けられている点で異なります。そのため、モール等に参加する各販売業者等が特商法を遵守している場合であっても、場の運営者である事業者において、別途対応が必要となりますので、ご留意ください。
また、名称がよく似た、特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律(以下「特定DPF法」)は、一部の巨大なDPF事業者を規制しています。これに対し取引DPF法は、有料の売買やサービス提供のDPFを運営としている事業者であれば、資本金の額や事業規模等に関係なく、広く規制対象としているため、特定DPF法と混同しないよう注意が必要です。
3 事業者が情報開示請求に対してとるべき対応
では、事業者は情報開示請求に対して、どのような対応をとるべきでしょうか。情報開示請求制度は、事業者が消費者から開示請求を受け、一定の要件を満たす場合、販売業者等の、氏名・名称、住所、電話・FAX番号、メールアドレス、法人番号情報といった情報の開示義務を負うものとされています。そして、事業者が適切に情報開示を行わない場合、消費者は取引DPF法に基づき裁判を通じて情報開示請求することも可能となります。
(1)情報収集と意見聴取
まず事業者は、消費者から請求の理由や根拠となる情報を受領する必要があります。その後、事業者は、受領した情報を販売業者等に対して提供した上で、販売業者等に対して意見聴取を行う必要があります。なお、販売業者等と連絡することができない場合は、意見聴取に代えて合理的に期待される手段を尽くすというプロセスを踏むこととなります。
事業者がこれらを怠ると、消費者や販売業者等に対して民事上の責任を負うおそれがあるのでご留意ください。
(2)開示すべきかを検討する
事業者は、双方から受けた情報や意見をもとに、取引DPF法が定める開示要件を充足するか検討しなければなりません。事業者にとっては双方の情報や意見が真実か否か等も含めて判断するため、難しい作業といえます。手続きを尽くさないまま開示した場合、販売業者等から民事上の責任を追及される可能性や個人情報保護委員会から行政指導を受ける可能性があります。反対に手続きを尽くさないまま不開示とした場合は、消費者から情報開示訴訟を提起される可能性や消費者庁から行政指導を受ける可能性があります。
一方で、取引DPF法等に従った適法な手続きを行い、適切な判断過程を経ているのであれば、結果として事業者の判断が誤りであったとしても責任を負わない可能性が高いため、重要なことは「手続きを尽くすこと」といえます。
以下では、その開示要件と検討の際の注意事項について、概要を解説します。
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要件① 「消費者」にあたること
まず、請求者が「消費者」に該当する必要があります。消費者とは、「商業、工業、金融業その他の事業を行う場合を除く個人」とされているため、請求者が業者でないことを確認する必要があります。
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要件② 「販売業者等」にあたること
次に、消費者が求める情報開示の相手方が「販売業者等」に該当する必要があります。販売業者等とは、「販売業者又または役務の提供の事業を営む者」を意味し、「事業を営む者」かどうかは、客観的に見て、営利の意思をもって反復継続して取引を行う者といえるかという観点で判断するとされています。このため、例えば個人のふりをした業者(いわゆる「隠れB」)については情報開示が必要となります。この隠れBは、消費者庁が問題視していることもあり、特に慎重に判断する必要があります。
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要件③ 1万円を超える「債権」の行使であること
この「債権」には、取引対象となる商品代金に対する損害賠償請求権に限らず、例えば、慰謝料のような二次的な損害等の賠償請求権も含まれます。これらの債権を消費者が主張する場合は、事業者に対して、その主張を裏付ける具体的な説明と資料等の情報提供も必要となります。このため、事業者としても、消費者から具体的な説明や資料の提示を受けた場合、債権の存在を確認する必要があります。
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要件④ 情報確認の必要性があること
請求者が既に販売業者等と連絡を取っており、情報を十分に把握していれば、あえて事業者から開示する必要性はありません。このため、事業者は、請求者が販売業者等と連絡を取り合っている場合は、そのやり取りの内容も確認した上で、請求者が行った開示請求による情報確認の必要性を判断しなければなりません。
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要件⑤ 不正な目的をもった請求でないこと
消費者に信用毀損等の不正な目的がないことも要件となります。情報開示請求はいやがらせ等の目的で利用される可能性があります。不正な目的の請求に対して販売業者等の情報を開示してしまうと、事業者も民事上の責任や風評被害を受けるおそれがあります。このため、事業者としては、消費者の請求理由が適切に述べられており、提出書類の内容等が信頼でき、不正な目的ではないことを確認する必要があります。
4 終わりに
事業者は、取引DPF法の施行により、従前よりも訴訟や行政指導等の法的リスク、ひいては経営上のリスクを負うことになりました。各事業者は、予防法務を向上させるためにも、取引DPF法に関しては、消費者庁の公表するガイドライン等も参考の上、体制を見直し、円滑かつ適切な対応をはかっていくことが望まれます。
弁護士 菅沼 匠
弁護士 中山 駿