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IPOに向けた体制整備 -内部通報制度-

1 はじめに

 新規上場申請時の審査では、内部通報制度に関して、社内の通報窓口、社外の通報窓口、通報受領後のフロー、社員への周知方法、当該制度の利用を促進する施策および最近2年間および申請事業年度の通報件数等を説明することとなっています。
 そのため、IPOの準備をしている会社においては、まだ内部通報制度を導入していない場合はどういう内容のものを導入すればよいのか、既に内部通報制度を導入している場合は現在導入しているものが十分な体制となっているのか、という点を検討する必要があります。(なお、2022年6月に施行された改正公益通報者保護法により、従業員数が300名を超える企業は、公益通報への対応体制の整備が義務づけられています。)
 本ブログでは、会社の内部通報制度の統括・通報窓口をしていた弊職の経験も踏まえて、内部通報制度の導入・整備に関して、制度設計、調査対応、従業員への周知の順でご説明したいと思います。

2 制度設計

 内部通報制度の設計においては、①通報窓口、②通報者の範囲、③通報の対象、④通報の方法、⑤通報者の秘密の保護、⑥情報共有の範囲、⑦調査の方法、⑧是正措置、⑨通報者への通知、⑩不利益扱いの禁止といった点を明確にする必要があります。また、これらの内容については、会社規定に定める必要があります。
 以下では、上記①~⑩について、その詳細を説明します。

(1)    通報窓口
 社内窓口と社外窓口を設け、社内窓口はコンプライアンス部署の部長および同部長が認める者とし、社外窓口は通報された事項に関する事実調査も依頼できると利便性が高いことから弁護士とするのが一般的です。なお、社外窓口の弁護士は、利益相反が生じることを避けるため、会社の顧問弁護士以外の弁護士とする必要があります(顧問弁護士と同じ法律事務所の弁護士を社外窓口とする場合は、法律事務所内で顧問弁護士と社外窓口の弁護士との間にウォールを設けてもらう必要があります)。
 上記に加えて、取締役・執行役員の行為等に関する通報に対応するため、監査役(もしくは監査等委員会)を通報窓口とすることも考えられます。

(2)    通報者の範囲
 通報窓口を利用できる者としては、会社の役職員(アルバイト、パートタイマー、派遣社員を含む)、会社と請負契約その他の契約に基づき事業を行う他の事業の労働者および当該役職員・労働者であった者(公益通報者保護法では、退職から1年以内の者が含まれています)とすることが考えらえます。

(3)    通報の対象
 会社の業務において法令等に違反する事例が生じ、または生じる恐れがあることについて通報を受け付けるとするのが一般的です。

(4)    通報の方法
 電話、電子メール、書面および面会のいずれの方法も可とするのが一般的です。
 顕名だけでなく、匿名での通報も認めるべきですが、匿名での通報の場合、通報された事項に関する事実関係の調査に限界が生じる場合が多々あることに留意が必要です。

(5)    通報者の秘密の保護
 通報窓口は、通報者の秘密に配慮しなければなりません。(公益通報者保護法では、公益通報に対応する従事者として指定されている者や従事者であった者は正当な理由なしに、その業務上知り得た公益通報者を特定させる情報を漏らしてはならないとしており、この義務に反して公益通報者を特定させる情報を漏らした場合、30万円以下の罰金を科せられることになっています。)

(6)    情報共有の範囲
 通報において知り得た情報については、コンプライアンス部署が必要と認めた者および調査担当者に限り、共有することができます。

(7)    調査の方法
 通報窓口が調査を主導することとなりますが、詳細については、後述「3 調査対応」に記載します。

(8)    是正措置
 コンプライアンス部署は、調査の結果、法令等違反行為が明らかになった場合には、速やかに是正措置および再発防止措置を講じる必要があります。また、調査の結果、法令等違反行為が明らかになった場合、会社は、就業規則に従って当該行為に関与した者について懲戒等の処分をすることとなります。

(9)    通報者への通知
 通報窓口は、調査の進捗状況について、通報された者のプライバシー等に配慮しつつ、適宜通報者に通知するよう努めるものとし、また調査結果について、速やかにとりまとめ、通報者に対して通知するよう努めるものとします。(公益通報者保護法では、是正をとった場合には是正措置をとった旨を、通報対象事実がない場合には通報対象事実がなかった旨を通報者に通知するよう努めることとなっています。)

(10)    不利益取扱いの禁止
 会社および役職員等は、通報者および調査に協力した者について、通報したことおよび通報を端緒とする調査に協力したことを理由として、いかなる不利益扱いもしてはなりません。(公益通報者保護法では、公益通報を理由とする解雇、降格、減給などの不利益な取扱いは禁止されています。)

3 調査対応

 具体的にどのように調査するのかという点については、通知された事項に関する事実関係を明らかにする必要がある一方、通報者の秘密の保護を図る必要があるため、調査に際して頭を悩ます場面に遭遇することが多々あります。調査の過程において気を付けないといけない事柄も数多くあるため、調査担当者が手順・判断に困らないよう、調査の際に実施する手順について、マニュアルを作成しておくのが良いと思われます。
 調査担当者は、以下の手順にて調査をします。

(1)   社内窓口に通報された事項に関する事実関係の調査は、弁護士の指導・助言を受けながら、コンプライアンス部署が行います。なお、コンプライアンス部署に指導・助言をする弁護士は、社外窓口の弁護士を利用するとよいと思われます。通報先が社外窓口や監査役の場合、社外窓口の弁護士や監査役が調査をします。

(2)   通報窓口では、通報者から通報事実の内容について聞き取りを行うとともに、必要に応じて、情報開示者、ヒアリング対象者および開示情報等について通報者から承諾を得ます。

(3)   通報窓口は、通報を受け付けた後、調査が必要であるか否かについて、公正、公平かつ誠実に検討する必要があります。通報者の秘密を守るため、通報者が特定されないよう調査の方法に十分注意しなければなりません。

(4)   通報窓口は、調査方針について、コンプライアンス部署の部長もしくは担当役員から承認を得ます。

(5)   コンプライアンス部署の部長は、調査する内容に応じ、関連する部署の所属員および外部専門家等を調査担当者に指名します。

(6)   調査担当者は、各部署に対し、通報に係る事実関係の調査に際して協力を求めることができ、各部署は、通報に係る事実関係の調査に際して協力を求められた場合には、調査担当者に誠実に協力しなければならず、通報に係る事実関係の調査対象となった者は、調査担当者による調査を妨害してはなりません。

(7)   調査担当者は、客観的な証拠の調査およびヒアリング調査を実施します。コンプライアンス部署は、調査担当者による調査に基づき、通報された事項に関する事実について事実認定をした後、当該行為が法令違反に該当するか否かについて評価を行います。当該事実認定および評価をする際には、必要に応じて、弁護士にその妥当性を確認します。

4 従業員への周知

 内部通報制度が適切に機能している会社では、従業員100名あたり年1件程度の通報があるといわれています。内部通報制度は、利用されなければ無意味なものとなってしまいますので、従業員等への周知および適切な通報件数があることは、非常に重要となります。
 しかしながら、多くの企業において、内部通報の件数はさほど多くないというのが実情となっています。
 従業員が内部通報を利用しない理由には、①制度の存在(通報窓口の存在を含む)自体を知らない、②通報したことにより自分に不利益が及ぶのではないかという懸念がある、および③通報しても何も変わらないのではないかという懸念がある、といったものがあります。

(1)   制度の存在の周知
 まずは通報窓口を含む内部制度の存在自体を従業員に知ってもらう必要があるため、社内研修等において十分に周知することが必要となります。全従業員に対して、通報内容を記載して外部窓口に無料で送れるレターを配布している会社もあります。

(2)   不利益取扱いの懸念への対応
 このような問題については、従業員は会社のトップの動向をみていますので、会社のトップが、内部通報制度が会社にとって非常に重要な制度であるという意識を持つ必要があります。また、通報したことをもって不利益取扱いをしないということについて会社のトップから従業員に対してメッセージを発することが好ましいと思われます。

(3)   通報対応への懸念
 是正措置や被通報者の処分といった点を含む通報への適切な対応ができていることについて従業員の理解を得るために、通報件数や対応結果について、可能な範囲で定期的に従業員にフィードバックすることが好ましいと思われます。

5 おわりに

 近年報道されている事例を見ても分かるように、会社の存続を揺るがすような重大不祥事は、会社内部からの告発によって明るみになることが非常に多いです。
 内部通報制度は、適切に運営にすることより、会社から法令違反の事案をなくすことに寄与することはもちろんですが、会社の存続を揺るがすような大きな問題に発展する前に問題を発見するという会社の自浄作用としても非常に大きな意味を持つものとなります。
 よって、従業員に内部通報制度の存在についてしっかりと周知をするとともに、従業員が有する通報への懸念を払しょくし、従業員が適切に内部通報を利用できるようにする必要があります。
 そのためには、会社トップの意思および会社トップからのメッセージが非常に重要であるという点を肝に銘じながら内部通報の制度設計および運営する必要があります。
 
 弊事務所ではIPOに向けた体制整備に関する各種サポートを行っております。皆さまからのご相談をお待ちしております。
 
弁護士 小野 祐司

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