「資金決済制度等に関するワーキング・グループ」報告(案)の概要について
2024年12月24日、金融審議会「資金決済制度等に関するワーキング・グループ」が開催され、同ワーキング・グループ報告(案)(以下「本報告案」といいます。)が公表されています。本記事では、WG報告案のうち、決済分野に関わるものについて、以下の5項目の概要を説明することといたします。
※ 金融審議会 資金決済制度等に関するワーキング・グループ報告(案)
https://www.fsa.go.jp/singi/kessaiseido_wg/siryou/20241224/1.pdf
1 資金移動業者の破綻時における利用者資金の返還方法の追加について
資金移動業者が破綻した場合において、資金移動業者が利用者から受け入れた資金の保全方法としては、現状の枠組みにおいても供託等の資産保全措置が講じられることとなっていますが、利用者への還付手続に長期間(最低170日)を要することから、利用者に対して、早期に資金を返還する方策を導入することについて、言及がなされております。具体的には、①保証機関による直接返還、②信託の受託者による直接返還の方策の導入です。ただし、かかる直接返還の導入は必須とはされておらず、現状の枠組みの供託等に加わる新た選択肢として用意されるものであり、いずれの方法を採用するかは事業者判断に委ねられるとのことです。
新たな直接返還方法の導入が全資金移動業者に画一的に求められるものであれば、その影響は大きなものとなり得ましたが、いずれの方法により返還を可能とするかはあくまで事業規模やサービス内容に鑑みて、事業者の判断により決定するものとされていることから、事業者に対する影響はそれほど大きくないものとみることができます。
2 第一種資金移動業の滞留規制の緩和について
第一種資金移動業に関する規制に対する課題として、①利用者資金の滞留期間の短さ、②送金指図に関し、「資金を移動する日」という具体的な送金指図の必要性、③第一種と第二種資金移動業(以下、単に、「第一種資金移動業」を「第一種」と、「第二種資金移動業」を「第二種」という場合があります。)を併営する場合において、第二種資金移動業において受け入れた資金を、第一種資金移動業にかかる資金として用いることの禁止による利便性の低下、が指摘されているところ、本報告案では次のとおり、見直しを行うことが検討されています。
①´利用者利便の向上のため、一定程度の資金滞留期間の延長を容認し、翌月末日払いの商慣習を踏まえ、事業者ごとのビジネスモデルに照らし、最長2か月の滞留を認めることが考えられるとのことです。ただし、資金移動業者の破綻時のリスクに鑑み、(1)利用者に対する、破綻時の損失等のリスクやこれを減少させるための体制についての説明及び利用者の理解を得ることや、(2)破綻時における新たな資金返還方法(前述の保証機関による直接返還又は信託の受託者による直接返還)の採用、及び早期返還並びに高い確実性のある返還体制の整備が求められるとのことです。
②´送金指図のうち、「資金を移動する日」に関し、送金サービス等の内容によっては、送金依頼時点で具体的に指定できない場合、「資金を移動する期限」という指定を認めることが考えられるとのことです。
③´第一種と第二種を併営する資金移動業者が、第二種において受け入れた資金を、第一種にかかる資金への振替えを認めることが考えられるとのことです。ただし、第一種と第二種では滞留規制に違いがあるところ(前者が厳格な規制下にあります。)、滞留規制の潜脱を防止するという観点は引き続き重要であることを踏まえ、第一種にかかる為替取引に用いる目的で第二種において資金を受け入れることがないよう、実効性のある取組みを事業者において講じることが求められるとのことです。ここでいう実効性のある取組みとしては、利用者に対して第一種と第二種の滞留規制の違いを説明した上で、利用者が当初から第一種に関し用いる予定であった資金を第二種にかかる資金として資金移動業者に提供すること等を利用規約において禁止する等の対応や、第二種にかかる資金として滞留する資金が合理的な理由なく頻繁に第一種にかかる資金として振り返られているといった事情がある場合には必要な是正対応等を求めることが例示として挙げられています。
3 クロスボーダー収納代行の規制について
クロスボーダー収納代行については、①金銭債権の発生原因の成立に関与する者が行うクロスボーダー収納代行、②エスクローサービスと、③金銭債権の発生原因の成立に関与しない者が行うクロスボーダー収納代行の3つに分けられた上で、検討がなされています。
①のようなクロスボーダー収納代行については、(1)金銭債権の債権者から収納代行の行為者に対して代理受領権限が適切に付与されていること、(2)AML対策が適切になされていることを前提として、引き続き検討課題とするとのことです。ただし、オンラインカジノや出資金詐欺等の違法行為に関与していることが疑われる場合にはAML対策に関する前提がみたされているとはいえないため、規制を及ぼす必要が当然にあるとのことです。
②のようなクロスボーダー収納代行については、現時点において、エスクローサービスへの為替取引規制適用の必要性について共通の認識を得られておらず、国内において重大な問題とされるような被害は発生していないことを踏まえ、引き続き検討課題とするとのことです。
これらに対して、③のような、金銭債権の成立に関与しないクロスボーダー収納代行は、銀行等が行うクロスボーダー送金と同様の機能を果たしていることから、基本的に為替取引規制を適用すべきとのことです。ただし、(ア)(オペレーショナルリスクやマネロンリスク等が必ずしも高くないため)受取人との経済的一体性がある者が行うクロスボーダー収納代行の場合(受取人と資本関係がある場合等)や、(イ)(他法令において一定のリスク軽減措置が図られているため)他法令が規律する分野においてクロスボーダー収納代行を実施することが想定されている主体や行為については、直ちに為替取引規制を適用する必要性は高くないとのことです。
以上を踏まえ、為替取引規制が適用されるべきクロスボーダー収納代行として、①海外オンラインカジノの賭金の収納代行、②海外投資事案の収納代行、③海外EC取引業者からの委託を受け、決済のみに関わる収納代行、④インバウンド旅行者の国内での決済のための収納代行、といった4つの類型が例示されています。これらのうち、③や④については、上記適用除外の(ア)や(イ)に該当する場合もありえ、③については、ビジネスモデル全体として金銭債権の発生原因に関与していると考えられる場合などもあるとのことです。さらに、④については、インバウンド旅行者の国内決済がクレジットカードで行われる場合には、他法令によるリスク軽減措置等も踏まえ規制の要否が判断されるものとのことです。
上記の①や②は、実際にこれまでに被害もあった部分であり、これらについて規制を検討するのは意義のあるものだと思いますが、③や④については、実際上の問題について仄聞したことはありません。2025年には大阪・関西万博も控えており、インバウンド消費がより見込まれるところ、③や④を為替取引規制対象とすれば、その影響は極めて大きいものと思われます。とはいえ、③や④について基本的に為替取引規制の適用対象であるという本報告案のスタンスからすれば、クロスボーダー収納代行を現に行っている事業者としては、自社ビジネスモデルをどのように整理することができるのかをまず検討することが肝要であるといえます。同報告書内でも、金銭債権の発生原因に関与する場合というものの外延が明確でない可能性があるとの指摘もなされているところであり、実際上の解釈としてもこの点が重要になることは明白であるため、今後、この点の具体化、明確化が行政によりなされることが期待されます。
4 前払式支払手段の寄附への利用について
前払式支払手段を用いた寄附については、一定の制限を課した上で認めることが望ましいとされています。ここでいう一定の制限とは、マネロンリスクや詐欺等のリスクを考慮して、寄付金受領者を国・地方公共団体や認可法人等に限定することや、寄付金額を1~2万円とすることが挙げられています。なお、番号通知型の前払式支払手段は、ギフトカードを用いた詐欺事案が多発している状況を踏まえ、寄附に用いることのできる前払式支払手段から除かれています。
5 立替サービスについて
立替サービスについては、貸金業該当性が問題となるところ、様々な法的構成やスキームが存在することから一律の基準で貸付該当性を判断することは困難とされ、具体的な規制強化案等は提示されておりません。なお、当該判断過程について、一定程度具体化の上、本報告案において言及されていますが、結局のところ、各サービスの実態に照らして、個別具体的な判断を要するものとされています。
以上
弁護士 堤 一歩
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