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「資金決済制度等に関するワーキング・グループ」報告について

 2025年1月22日、金融審議会「資金決済制度等に関するワーキング・グループ」の報告が公表されております。本記事では、決済分野に関し、前回の報告案から追記・修正されている点について、概観することといたします。

1 クロスボーダー収納代行にかかる点について

(1) 注27において、日本国内で完結する収納代行に関して、従前の金融審議会における整理(①債権者が事業者や国・地方公共団体であり、かつ、②債務者が収納代行業者に支払いをした時点で債務の弁済が終了し、債務者に二重支払の危険がないことが契約上明らかである場合には、為替取引に関する規制を適用する必要性は必ずしも高くないという整理)は、特に変更されるものではないことを確認する記載が追記されています。

(2) 金銭債権の発生原因の成立に関与する者が行うクロスボーダー収納代行について、①代理受領権が適切に設定されていれば、支払人保護を目的とする規制は過剰ではないかという意見と、利用者保護の観点で代理受領権の内容についてより明確化を図るべきではないかという意見の追記(注32の箇所)がなされています。
 また、金銭債権の発生原因の成立に関与しない者が行うクロスボーダー収納代行について、②インバウンド旅行者による決済につき、クレジットカード決済に限られていた記載の、「インバウンド旅行者が国内で用いる決済手段に係る他法令によるリスク低減措置…」という記載への変更、及び③クロスボーダー収納代行にかかる規制対象の検討について、イノベーションを阻害したり、利用者保護やAML/CFTの観点から問題がない既存サービスが立ちいかなくならないようにすべきとの意見や、一部のオブザーバーからの海外EC決済やインバウンド向けコード決済を一律に規制する方向性に反対する意見の追記(注39の箇所)がなされています。
 後者の金銭債権の発生原因の成立に関与しない者が行うクロスボーダー収納代行については、前回の報告案と比較すると、クレジットカード以外の決済手段についても、他法令によるリスク軽減措置等を踏まえ規制の要否を判断するものと読むことができ、インバウンド旅行者が利用するクレジットカード以外の決済手段についても規制の要否について判断する余地が残されたとみることができます(上記②の箇所)。また、クロスボーダー収納代行に対する規制検討につき慎重な対応を求める意見が追加されたことすれば(上記③の箇所)、上記追記・修正箇所については、全体として、クロスボーダー収納代行に対する規制について、金融庁において、規制の必要性を裏付ける立法事実等につきなお検討を継続する必要のある事項であると受け止めているように推測されます。当然、楽観視できる状況ではなく、クロスボーダー収納代行を現に実施する収納代行業者としては、利用者保護の観点やAML対策の観点から自社が展開するサービスの分析・整理を実施することは必要であるものと考えます。しかしながら、クロスボーダー収納代行に対して資金移動業と同等の規制(資金決済法、犯収法や外為法等による規制など。)を導入することを前提として、話がそのまま進められるようには思われず、今後の動向について、引き続き注視しておく必要があります。

2 立替サービスにかかる点について

 立替サービスについて、BNPL(Buy Now Pay Later)等の販売信用については、割賦販売法の枠組みの中で解決を検討すべき問題であるとの意見の追記(注88の箇所)がなされています。
 BNPLとは、平易に言えば、商品の購入等に際し、後払いでの支払いを可能とするサービスであって、当該後払いの方法がクレジットカード以外の方法であるもの、と捉えることができます。なお、このような後払いを国内において提供する事業者の多くは、割賦販売法における個別信用購入あっせんの例外として位置付けられるマンスリーの範囲内でサービスを提供しているものと思われます。
 この点、今回の金融審議会では、BNPLサービスも念頭に置かれ議論がされていましたが、当該規制の要否については割賦販売法の枠組みの中で解決を検討すべき問題であるという意見が上記のとおり追記されています。かかる意見は、上記記載の例外の位置付けで現状の多くの国内BNPLサービスが展開されており、またこのようなBNPLサービスを切り出して金融庁マターとして整理し規制することは歪な規制となることが想像されることからすれば、妥当な結論であり、BNPLに対する規制については引き続き割賦販売法の枠内で議論されるのが相当なものといえ、引き続き当該枠内で規制の必要性につき議論されることが期待されます。
 なお、日本においてBNPLを提供する事業者の多くは、マンスリーと呼ばれる範囲内で(2月払いの範囲内で。俗にいう翌月1回払いの範囲で。)事業を展開していますが、これは海外におけるBNPLと比較した場合には、日本独特のものといえます。海外の場合には、BNPLといえば、多くの場合、手数料なしの12か月以内での分割後払いサービス(多くの場合、複数月にまたがる分割後払い。)を対象として、規制の必要性が議論されていますが、日本では、すでに、2月を超える後払いの場合には割賦販売法の規制がかかるものとされており、海外のようなBNPLを念頭に置けば、日本では規制の網がかけられている状況にあるといえます。マンスリーの範囲内の後払いをBNPLと呼ぶのは、日本特有であるものと思いますので、BNPLに対する海外の規制と比較して日本におけるBNPLを議論しようとする場合には、注意が必要です。

以上

弁護士 堤 一歩

※本記事の内容は、作成者の個人的な見解であり、作成者が現に所属する又はかつて所属した組織の見解ではございません。誤りがある場合、その文責は作成者にございます。

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