ICOの現状について

弁護士ブログ 2017.12.26 update

1.はじめに

 ここ最近、日本においても、ICOに対する関心は高まりつつある状況にあります。特に、初期のベンチャー企業における資金調達手法として有用であるものとして注目が集まっているとみることができます。今回は、このICOについて、その内容、現状の法規制等について、簡単に説明していきたいと思います。

 

2.ICOとは

 ICOとは、Initial Coin Offeringの略であり、Token Salesなどと呼ばれることもあります。ICOは、大まかに言えば、資金調達目的を有する法人又は個人が、トークン(Token)を発行し、その対価として仮想通貨又は金銭等の財産を収受する方法により資金調達を行うことといえます。ICOは、株式公開(Initial Public Offering、以下「IPO」といいます。)と比較されることが多いですが、IPOに比べると、その実施に対するハードルが、法規制や上場審査等の観点から低いものと考えられており、日本でも初期のベンチャー企業の資金調達手法としてICOに対し強い関心が寄せられています。

 

3.ICOに対する規制

 ICOに対する法規制は、明確に存在しているわけではなく、現状の日本においては、ICOに際し発行されるトークンの性質に応じて、法規制のあり方をどのようなものとするかが議論されている状況にあります。トークンの性質は、ICO実施に際して発行主体により提供されるホワイトペーパー(White Paper、以下「WP」といいます。)の記載を参照することにより把握することが可能でありますが、ICOに対する法規制の概要は次のとおりとなります。

(1)仮想通貨型
 発行主体がイーサリアム(Ethereum)を利用することにより、発行主体独自の仮想通貨を発行し、当該仮想通貨を投資家に購入してもらうことにより資金調達を実現しようとするものであり、ICOと呼ばれるものの中では基本となる方法であるといえます。これに関して議論されている内容については後述いたします。

(2)前払式支払手段型
 発行主体の発行するトークンが、自己又は第三者から商品の購入等を行うに際して利用することができることを予定するものである場合、資金決済に関する法律(以下「資金決済法」といいます。)にいう前払式支払手段に該当するものとして、資金決済法上の規制に服するものと考えられます。この場合、発行主体は、トークンを利用できる相手方の範囲等にもよりますが、財務局長に対する届出、供託義務、登録義務等が課されることとなります(資金決済法第5条第1項、第14条第1項、第7条)。

(3)集団投資スキーム持分型
 発行主体は、ICOを実施するにあたり、WPを投資家に対し提供しますが、その内容には、資金調達目的として、事業計画が記載されているのが通常です。そして、発行主体が、WP記載の事業から得た収益を投資家に対し分配することを予定する場合には、発行するトークンは金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)上の集団投資スキーム持分に該当するものとして、金商法上の規制を受けることとなります。
 この点は、投資家がICOの際に出資する財産が金銭ではなく、仮想通貨であれば、この集団投資スキーム持分に該当しないと考えることができるのではないかという意見も存在していました。しかし、金融庁の見解(「ICO(Initial Coin Offering)について~利用者及び事業者に対する注意喚起~」金融庁、平成29年10月27日)によれば、仮想通貨による出資であっても、実質的には日本円等の法定通貨による出資と同視されるスキームについては、金商法規制に服することとなるとされています。そのため、(3)の型によるICOを実施する場合には、出資される財産の種類に関係なく、金商法規制が及ぶものと考えておくのが穏当といえます。

 

4.仮想通貨型のICOについて

 前述の(1)仮想通貨型のICOについては、発行するトークンは、ICO実施段階では、数多く存在する仮想通貨取引所において広く取り扱われているものではないため、資金決済法第2条第5項第1号の仮想通貨に該当せず、当該ICOの実施にあたって仮想通貨交換業の登録は不要ではないかと考えられていました。しかし、ICO実施に際して発行されるトークンは、ICO実施後は、当該トークンを上場することにより仮想通貨取引所において広く取り扱われることを予定するものであり、また、システム上も他の仮想通貨との交換が制限されていないケースが多いものといえます。こうしたケースについては、当該トークンは資金決済法第2条第5項第2号の仮想通貨に該当し、仮想通貨交換業の登録を取得しなければ、適法に(1)のICOを実施できないと考える見解も現時点において示されている状況にあります。

 

5.最後に

 現在、ICOと呼ばれる資金調達手法には様々なものが混在している状況にあるため、ICOに対してどのような法規制が行われるのかを議論することが困難な状況にあります。また、ICOは現在、ベンチャー企業の新たな資金調達手法として注目を集めていますが、日本法下において、ICO実施主体単独で行うにはそれ相応の法規制が課されると考えておく必要があるといえます。さらに、現在各国においてICOに対する見解が表明されつつある状況にありますが、ICOに対する見解も国ごとに様々であるため、ICOを実施する地域における法規制についても注視する必要があります。

 今後、ICOはさらに注目され、併せて法規制等も整備されていくかと思いますので、ICOの実施主体は、その設計の際には各国各様と思われる法規制について留意し、適切な運用が求められるものといえます。


弁護士 堤 一歩

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取締役の競業避止義務に関するポイント解説

弁護士ブログ 2015.12.01 update

今回は、裁判例(名古屋高裁平成20年4月17日判決)の紹介を通じて取締役の競業避止義務に関する基本的なポイントを解説します。

1】 取締役が負う「競業避止義務」とは

 取締役は、会社法356条1項1号にて「取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとする」には、株主総会又は取締役会にて、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければなりません。これが「競業避止義務」と呼ばれるものです。

 名古屋高裁の裁判例では、貸コンテナ業を営むX社の代表取締役Yは、その就任期間中に同じく貸コンテナ業を営むZ社の取締役に就任しました。Yは、このZ社では、出資者でもなければ代表者でもありませんが、Z社に対して運転資金の貸付を行い、土地の賃貸借の連帯保証人となるとともに、X社が取引している業者をZ社に斡旋し、しかも、事務所の提供などを行っていました。また、Z社の出資者や代表者はYの親族でした。

このような事情を踏まえ、裁判所は、YはZ社において中心的な役割を果たす事実上主宰者と認め、Yの行為は競業避止義務違反にあたると認定しました。

2】 競業避止義務に違反した場合に負う責任

 そして、この競業避止義務は、取締役の責任を通常よりも重くしている点に特色があります。通常、取締役が法令に違反して損害賠償を負う場合、損害を受けた者が、被った「損害額」を立証しなければなりません。これに対し、会社法423条2項は「当該取引によって取締役、又は第三者が得た利益の額は、損害の額と推定する。」という特別な規定を設け、「取締役と第三者」が得た「利益額」を損害賠償責任の額とすることを認めています。

名古屋高裁の裁判例では、X社は、損害額として①「X社の逸失利益」と、この特別規定による②「Yが得た利益額」を主張したところ、①「X社の逸失利益」については立証が尽くされていないものとして認められませんでしたが、②「Yが得た利益額」についてはX社の主張が認められました。しかも、この②「Yが得た利益額」というものの認定が特殊でした。というのも、Z社は赤字企業であったため、Z社の利益を通じてYが得るような利益は無いようにも思えました。しかし、YがZ社から受けていた役員報酬に着目し、Yが得た役員報酬の5割をYが得た利益として認定し、損害賠償額を1,953万円と認定しました。

3】 まとめ

 このように、取締役に課された競業避止義務というのは、取締役が競合する会社の代表者でないとしても、中心的な役割を果たしていれば違反と認定されるおそれがあること、その損害賠償額についても、たとえ競業していた会社が赤字であったとしても、役員報酬にまで着目して認定されるということで、幅広く判断されるものであるということに注意が必要です。

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情報サービス業における請負・業務委託の適正化のためのチェックリストについて

弁護士ブログ 2015.12.01 update

いわゆる「偽装請負」とは、契約の形式は請負・業務委託とされているものの、発注者が直接受託者の労働者を指揮命令するなど、実態として労働者派遣となっている請負・業務委託を言います。

このような請負・業務委託は、労働者派遣法等に違反することから問題となり、労働局等の行政からの指導はもちろんのこと、事業者と労働者間のトラブルにもなります。しかしながら、労働者を他社に出している事業者側にとっても、それが請負(業務委託)なのか派遣なのかは判断が難しいといえます。

そこで、厚生労働省は「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号)」(※1)という告示により、派遣と請負(委託)の区分基準について公表しています。

しかし、この告示は、条文形式なので、一般の事業者ではなかなか理解することができませんし、情報サービス業に限らず製造業等にも適用されるため、抽象的です。

そこで、この告示を踏まえ、情報サービス業用に分りやすくチェックリスト化されたものがあります。それが、東京労働局が作成した「情報サービス業に於ける請負の適正化のための自主点検表」です。当該チェックリストは問い合わせが多いことを踏まえ、東京労働局では現在、掲載されておりません。しかし、このチェックリストの内容を見ると、一般の事業者でも分り易く作られており、事業の健全化には有用なものといえますので、以下、東京労働局が掲載していたチェックリストの内容を紹介させて頂きますので、ご参考にして頂き、請負・業務委託の健全化を図って頂ければと思います。

以下、本文を一部修正のうえ掲載しております。 


 適正な請負のための大切な要件は「★印」の2つの項目です。それを満たすためにさらに「1~4」の4つの項目があります。現場の実態に照らし合わせて点検をしてみましょう!

(対象業務:ソフトウェア・システム設計・開発、システム運用管理等)

★ 請負事業者が雇用する労働者の労働力を自ら直接利用すること

 具体的には、(1)業務の遂行方法等を発注者が介在せずに請負事業者が決めること、(2)労働者の勤怠管理等を発注者が介在せずに請負事業者が行うこと、(3)労働者の選定等についても請負事業者が決めることが必要です。

 また、その請け負った業務の一部または全部を協力会社等へ再委託する場合、その業務の処理方法、協力会社の労働者の勤怠管理、選定等について、発注者等が介在してはいけません。

□印の項目を参考にしながら点検して下さい。(□印の各項目に該当すれば適正といえるでしょう)

1 作業に従事する労働者を請負事業者が指揮監督するものであること。

(1) 労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を請負事業者が自ら行っている。

□ 作業場における労働者の人数、配置、変更等の指示は、請負事業者が行っている。

□ 労働者に対する業務の技術指導や指揮命令は、請負事業者が行っている。

□ 作業スケジュールの作成や調整は、請負事業者自らが行い労働者に指示をしている。

□ 欠勤等があった時の人員配置は、請負事業者が自ら指示、配置をしている。

□ その請け負っている業務に対し、請負事業者の責任者(リーダー)を定めている。(発注者からの依頼は責任者が代表して受ける。)

□ 発注者からの業務依頼に対し諾否の自由があり、業務遂行の過程における裁量が認められていることを発注者及び請負事業者、双方の責任者及び業務に従事する労働者が認識している。

□ 複数の会社の労働者が混在するプロジェクトチームの場合、請負事業者以外の労働者が請負事業者の個々の労働者に対し業務遂行の指示等を行っていない。

□ 請負事業者は仕様書等に基づき自らの判断で業務を処理している。

* さらに業務を再委託(発注)する場合の点検

   A 社  →  B 社  →  C 社

□ C社の労働者に対する業務の技術指導や指揮命令を、A社が行っていない。(日常的に詳細な業務依頼を、A社と契約関係のないC社の責任者(リーダー)や労働者に行っていない。)

□ 作業場におけるC社の労働者の変更等の指示、欠勤等があった時の人員配置は、A社が指示、配置をしていない。

□ その発注した業務に対し、C社の責任者(リーダー)がいる。

(そのリーダーはB社との窓口になっており、リーダーとしての責務を遂行できる。)

□ 請負事業者労働者と発注者労働者が同一の場所で作業を行う場合、お互いがひとかたまりにまとまっており間仕切り・看板等を用いるなどして、客観的に区分できる状態になっている。

(2) 労働者の労働時間等に関する指示その他の管理を請負事業者自ら行っている。

□ 請負事業者が労働者の就業時間、休憩時間の決定、把握をしている。

□ 請負事業者が業務の進捗状況をみて、労働者の残業、休日出勤の指示を行っている。

□ 請負事業者が労働者の欠勤、遅刻、早退等の勤怠管理を行っている。

□ 請負事業者の個々の労働者の仕事の分担やスケジュール管理等を遂行でき、かつ、その権限が与えられている責任者(リーダー)が選任されている。

* さらに業務を再委託(発注)する場合の点検

□ C社の労働者の就業時間、休憩時間の決定、休暇等の承認、勤怠管理をA社が行っていない。

□ A社が業務の進捗状況をみて、C社の労働者の残業、休日出勤の指示を行っていない。

(A社が、直接C社の労働者に対し具体的な形で残業、休日出勤の依頼を行っていない。)

2 作業に従事する労働者に対し、使用者として法律に規定された全ての義務を負うこと。

(企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を請負事業者自ら行っている。)

□ 発注者が履歴書・経歴書等の提出要請や面接等を行い、請負事業者の労働者を選定することはない。

□ 労働者の要員の指名、分担、配置等の決定は請負事業者が全て行っている。

□ 責任者(リーダー)の決定、変更等は請負事業者が全て行っている。

* さらに業務を再委託(発注)する場合の点検

□ A社が履歴書・経歴書等の提出要請や面接等を行い、C社の労働者を選定することはない。

□ 契約書等に再委託(発注)する場合の規定があり、その規定どおりの手続を行っている。

□ A社は、B社とC社の再委託(発注)を承知し、C社の労働者とB社の労働者が区別できる。

 

★ 請け負った業務を請負事業者の自己の業務として独立して処理していること

3 業務の処理について、事業主としての財政上及び法律上の全ての責任を負うこと。

□ 業務の処理について、請負事業者側に契約違反等があった場合は、その責任について追及できる。

4 単に請負事業者が肉体的な労働力を提供するものとはなっていないこと。

□ 契約類型によって、契約書等に完成すべき仕事の内容、目的とする成果物、処理すべき業務の内容のいずれかが明記されている。

□ 処理すべき業務を、請負事業者の有する高度な技術・専門性等で処理をしている。

(請負事業者に高度な技術・専門性等がない場合、業務の処理に必要な機械・設備等は発注者より無償で提供を受けていない。)

* さらに業務を再委託(発注)する場合の点検

□ A社とB社との契約により行う業務のうち、さらに、B社とC社によって行う業務の完成すべき仕事の内容、目的とする成果物、処理すべき業務の内容のいずれかが契約書等で明らかにされている。

□ B社からC社に再委託(発注)する業務は、C社の有する高度な技術・専門性等で処理をしている。

(C社に高度な技術・専門性等がない場合、業務の処理に必要な機械・設備等はA社から無償で提供を受けていない。)


 点検の結果はいかがでしょうか。もし、該当しない項目があれば、適正な請負とは判断できない可能性があります。懸念点がありましたら、ビジネスモデルをなるべく崩さないような健全な体制を一緒に築いていければと思いますので、ご相談ください。

参考:※1 http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000046903.pdf

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